第10回 小心者の取材報告 東京に台風が近付いていた。会社がある東京への上陸にはまだ時間があったが、空模様はすでに妖しく、どんよりとしていた。 そんな時、アニメの作画参考として、高いところから見下ろした街並みの写真が必要になった。まずはインターネットで探してみる。 検索して出てくるのはものすごく高いところから撮影した街並みの写真ばかり。 私は、内線で社長秘書に電話をかけた。 (全く関係ない話題だが、社長秘書に人生相談をする人が多いという調査結果があるのをテレビで見た。) 「5階の社長室のベランダから写真を撮らせてください。」 ちょうど社長がいなかったようで、許可はすぐに下りた。 5階のベランダに出ると、外は小雨が降り始めていた。何枚か街並みの写真を撮影してみるが、まだ、しっくりと来ない。 私はベランダから上にのびる屋上へのハシゴに目を付け、いざ屋上へ。 雨と風はだんだん強くなっている。 冷たいハシゴを一段一段ゆっくりと昇り、私は屋上に立った。屋上にあるのはでかい空調の室外機だけ。高所恐怖症により足がすくんで、柵のない屋上の端っこに行くことができない。雨で濡れた足下と吹き付ける強い風が恐怖感を増大させる。 私は自分が行ける限界の地点で、少しでも視点を高くするため、カメラを上に大きく掲げ、ファインダーを覗かずに写真撮影。ブレてなかなかうまくいかない。雨は降り注ぎ、私の体を冷やしていく。こんな場所からは一刻も早く帰りたい。 何とか撮影を終え、途中、ずるっと滑って軽い悲鳴をあげたりもしながらも無事帰還。 それにしても、ハシゴの最後の一段が床から遠すぎ!着地したときの水しぶきで濡れたし。 結局、写真のアングルは意図と合わず使えなかった(涙)。 仕方なく再度インターネットで探した写真を使うことになった。 完成したアニメを見たら、参考写真の面影など微塵も感じられないような美しい街並みの背景が広がっていた。 | ||
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