第7回 ある愛の離しの話 その日の夜、私は「焼きたて!!ジャぱん」の撮影素材を届けにアニメフィルムさんに来ていた。 (アニメフィルムとはアニメの画像データをパソコンで編集して映像にしてくれる会社。近くに畑があり、たまに狸(本物)が出る) 素材の受け渡しが終わり、荷物を乗ってきた車に入れ、ちょっと一息伸びをした。 すると・・・「にゃぁ」私の体がとろけるような猫なで声が聞こえたのだ。 回りを見渡すが、人影は居ない。「にゃあ!」もう一度声が聞こえると同時に、私の足下に心和む暖かな感触。「にゅにゃあ」足下にいるのはとっても貧相な猫。決して可愛いとは言えない猫だが、猫というだけで幸せな気分に満たされる。私は「にゃぁ~ん」と猫の鳴き声を発し、しゃがみ込み、猫の額をなでる。目を細め気持ち良さそう。 飼い猫でもない限り、猫の方から寄ってきてくれるというのは、私にとっては奇跡に近い。たいてい、可愛い猫が道端に居ても近寄ると逃げてしまうものだ。 この猫が相手をしてくれるという至福の時が永遠に続けば良いと思うのだが、人生、時は流れていく。 業務中の私は会社に戻らなければならない。 私は車のドアを開け、運転席に乗り込む。別れが惜しくてなかなか扉を閉めることができない。鳴き続ける猫。そして、車に入ってくる。 猫が入ってきて、 “しまった!!”という思いと“このまま連れて帰りたい!!”という思いが交錯する。 一度は扉を閉め、猫との密室空間を少しばかり楽しむが、もちろん、猫を連れて帰るわけにはいかない。扉を開け、私は外に出る。 猫に見えるように車を離れ、猫の鳴き声を真似たりしながら、誘い出す。猫の背中をゆっくり上下させる品の良い歩き方が美しい。私は猫を十分車から引き離し・・・ダッシュで車に戻ってドアを閉める。 「にゃあぁ」 誰かを呼ぶ儚い鳴き声。私は車のエンジンをかけ、その鳴き声をかき消す。 車のライトが暗闇だった場所を明るく照らしていくと、そこにはタバコを吸う人影。 一部始終見られた!?・・・は、恥ずかしい。 私は車を方向転換し、帰り道を急いだ。 窓から入ってくる秋の夜風が、火照った頬に当たり冷たかった。 | ||
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